研究室に配属され、自身の研究をスタートさせると、たくさんの論文を読む機会や必要が出てきます。
初めは、研究室の先生や先輩から渡されたものを読むので精一杯かもしれません。
しかし、実際の研究がスタートすれば、それだけでは足りません。
先行研究(以前に行われている研究)や新規性(論文化するには必須です)といった自身の研究の立ち位置を知る、あるいは研究を進めていく中で実験手法や発想の参考にするために、たくさんの論文を読むことは、必要不可欠です。
そこで、この記事では化学分野における主な論文の調べ方について私の知っていることをまとめました。
新規性について:過去に行われた論文として発表されている研究と全く同じ内容のものを再度行い、同様の結果を発表することはできません。発表される論文には、必ず何らかの新しい知見が含まれている必要があります。
SciFinder
SciFinder (サイファインダー)は、化学や生命科学などの分野で使われている学術論文および特許、書籍検索データベースです。
キーワード、構造式、反応式、CAS番号(化合物ごとに割り当てられている固有の識別番号)などで検索することで、化合物の物性や合成法、スペクトルデータに加え、関連する論文などを調査することができます。
検索したあと、各項目の左下に表示されている Full Text を開いたときに DOI(論文ごとに割り当てられている識別番号のようなもの) をクリックするだけで、その文献のオンラインページに飛ぶことができる便利な機能があります。
DOIについて詳しく説明されている記事があったのでリンクを貼っておきます。
学会運営サポートの専門企業 SOUBUN.COM (https://www.soubun.com/journal/%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%86%E3%83%B3%E3%83%84%E3%81%AB%E4%BB%98%E4%B8%8E%E3%81%95%E3%82%8C%E3%82%8B%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E7%9A%84%E8%AD%98%E5%88%A5%E5%AD%90%E3%80%8Cdoi%E3%80%8D%E3%81%A8%E3%81%AF/)
また、化合物を検索した際に、市販されている化合物であれば試薬会社のサイトにリンクが繋がっており、製造番号や値段、在庫などを簡単に見ることが可能です。
詳しくは、JAICI(一般社団法人化学情報協会)のホームページでご確認ください。リンクを以下に貼っておきます。
CAS SciFinderⁿ (文献・反応・化学物質検索サービス)
https://www.jaici.or.jp/cas-scifinder-discovery-platform/cas-scifinder-n/
ただし、利用には契約が必要なので、自身の所属機関(例:大学)が契約しているかはご確認ください。
Google Scholar
トップページ(https://scholar.google.co.jp/schhp?hl=ja)のスクリーンショット
Google Scholar(グーグルスカラー)も SciFinder と同じく、世界中の学術文献を検索することができます。
英語や日本語、その他さまざまな言語で書かれた文献を検索することができます。
SciFinder と異なるところとして、Google Scholar では構造式や反応式を書いて検索することはできないということです。
Google Scholar では、検索窓にキーワードやタイトル、著者名などを入力し、右の虫眼鏡ボタンをクリックすることで調べることができます。
トップページ(https://scholar.google.co.jp/schhp?hl=ja)のスクリーンショット
また、左上にある横三本線をクリックし、検索オプションを選択すると、下の画像のようになります。
検索オプションのスクリーンショット
この機能を利用することで、様々な条件を指定し、文献検索を行うことができます。
検索したあとに、右側に [PDF] と青字で表示されているものは、クリックすることで直接閲覧ができます。必要に応じて、保存してください。
また、PDF 表記が無いものに関しても、右側に表記されているリンクをクリックし、文献の記載ページに移動することで得られる場合もあります。
Google Scholar の利点は、グーグル検索のように気楽にできることと無料で誰もが利用できるというところです。
各論文の参考文献
ここからは上記とは異なる種類の調べ方をご紹介します。
上記の調べ方で見つけた論文や先輩、指導教員から渡された論文などを軸として、調べていく方法になります。
論文には、必ず参考文献(reference) という項目があります。(論文の構成については、別の記事で紹介する予定です。)
その項目には、文献情報(著者・タイトル・雑誌情報など、掲載雑誌により表記や文体が異なります。)が載っています。
その文献情報を検索することで、論文に書かれている知りたい部分の一次情報にアクセスすることができます。
その文献の緒言を読むと、研究の背景について詳しくなり、結果の項目で自身の研究の参考にできます。
さらに、その論文の参考文献にアクセスすることで、、、(上記の繰り返し)。
このようにして、その研究分野について深堀りすることができます。
各論文の被引用検索
こちらも同じく、上記の調べ方で見つけた論文や先輩、指導教員から渡された論文などを軸として、調べていく方法になります。
ACS Publications のホームページ(https://pubs.acs.org/journal/jacsat)におけるある論文ページのスクリーンショット(論文情報がわからないようにペイントの切り抜き加工を行っています。)
画面真ん中に Citations の項目があり、この画面では 100 と表記されています。
この数字は、この論文がこれまでに 100 回、ほかの文献で引用されたことを示します。
この欄をクリックすることで、どんな文献で引用されたのかを確認することができます。(この Citations の位置や表記方法は、雑誌により異なります。)
このような文献検索方法を、「被引用検索」といいます。
自身の研究分野の軸となる論文をいくつか被引用検索をすることで、自身の研究の新規性や独創性について、確認することになります。
各雑誌のホームページ
ACS Publications のホームページ(https://pubs.acs.org/journal/jacsat)のスクリーンショット
最新の論文をチェックするときは、各雑誌のホームページから確認する方法もあります。
画像の List of Issues の欄には、出版された巻の雑誌に掲載されている論文がまとまっています。
雑誌によって週に一巻出るものもあれば、隔週で発行されているものもあります。
自身の研究分野の主要雑誌については、発刊されるごとに確認すべきです。
グラフィカルアブストラクト(図や絵でその研究について表したもの)にさっと目を通し、精読すべき論文か見極めましょう。
その他にも、まだ発刊される前の論文に関する情報なども掲載されています。
ぜひ、ご自身で上のリンクから一度 JACS(Journal of the American Chemistry Society)のサイトをご覧ください。(個人的に、アメリカ化学会の雑誌は見やすいのでお勧めです。中でも、Organic Letters は面白い反応系がよく掲載されていると感じています。)
私の研究分野である反応開発系でよく参照している雑誌は、
- J. Am. Chem. Soc.
- Angew. Chem. Int. Ed.
- Chem. Sci.
- Chem. Commun.
- ACS Catal.
- Org. Lett.
- Adv. Synth. Catal.
です。他にも、ありますが、、、。この雑誌いいよというおすすめあれば、コメントください。
日本語の記事を読むには
各協会や雑誌を購読するという方法もあります。
比較的安価に日本語で記事を読めるため、当該分野の導入の際に勉強するときには有用な方法となります。
私が実際に行っている(いた)ものをご紹介します。
「有機合成化学協会誌」
公益財団法人 有機合成化学協会が毎月発行している雑誌となります。
主に有機合成化学、有機反応化学などの分野の内容が記載されています。
入会すると、当協会主催のイベントへの参加料の割引やシンポジウムでの研究発表、協会誌の無料配布(年会費が異なります)などの特典が受けられます。年会費は、入会する人の立場によって異なりますが、学生会員であれば 3500 円から入会でき、協会誌の無料配布を希望する人は 5000 円となります。(3500 円でも電子版を読むことはできる)
月刊「化学」
株式会社 化学同人が毎月発行する雑誌となります。
この雑誌で扱われるテーマは、化学全般です。そのため、分野外の人にも読みやすいようにカラーで丁寧に概念図や表が載っています。
また、連載記事として、測定装置の原理や英語論文の書き方など研究そのものではなく、研究遂行に役立つような内容が載っています。
個人的には、その連載記事だけでも購読の価値があると思います。
一冊当たり 864 円で購入することができます。
また、東京化学同人が出版する「現代化学」も同様のものだと思われます。
論文を検索する際の共通の注意事項
全ての検索ツールに共通して言えることですが、網羅性は高いといえどすべての文献が収録されているわけではありません。
なので、検索する際にはあらゆる方法を組み合わせることで、網羅性を高めていくほかありません。
加えて定期的に、文献の被引用検索をすることで、研究の動向を確認します。
また、論文には open access のものとそうでないものがあります。
通常、論文は投稿され、各雑誌に掲載された後、一般の人が読むためにはお金を払って、その論文を購入する必要があります。
大学や研究機関では組織として、各雑誌の購読権を獲得しています。
なので、研究室に配属された学生は大学が購入している雑誌であれば、読むことができます。(大学によっては意外と有名雑誌でも読めないものもあります、、、。金銭面で大変ですもんね。)
open access の論文とは、投稿者が費用を払うことで、全ての人が無料で文献にアクセスすることができるものです。
近年では、論文のオープンアクセス化が進められています。
雑誌の投稿料がけた違いに高いので、研究室によってはそれだけで研究費用がなくなってしまうので投稿できないといった問題も挙がっていますね。
最後に
論文検索方法は様々ありますし、分野によって見るべきところも異なります。
各研究室の先生や先輩に確認し、研究を進めていってください。
情報に更新や修正があれば、随時追記しますので、ご了承ください。
ご意見・ご指摘・質問・相談などある方はご気軽にコメントください。
では、また。obrigado.
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